患者さんとの信頼関係が治療の鍵である理由
こんにちは。医療法人煌仁会森川内科クリニック院長の森川髙司です。
医師になって30年の経験を積む中で、私が最も大切にしているもの。それは「患者さんとの信頼関係」です。
今日は、なぜ私が診療において信頼関係を何より重視するのか、そして患者さんとの対話がいかに治療の成功につながるのかについて、お話しさせていただきます。
医師として学んだ大切な教訓
医師になったばかりの頃、私は「正しい医学知識を伝えれば、患者さんは必ず治療に協力してくれる」と思っていました。
しかし、ある患者さんとの出会いが、私の考えを大きく変えました。
60代の男性患者さんでした。HbA1cが9.2%と高値で、医学的には緊急性の高い状態でした。私は必死に食事制限の重要性を説明し、運動療法の必要性を力説しました。
でも、患者さんは「はい、はい」と言うだけで、次の診察でも血糖値は全く改善していませんでした。
そんな時、看護師が私に言ったのです。 「先生、あの患者さん、奥様を亡くされたばかりで、一人で食事を作るのがとても辛いそうですよ」
その瞬間、私は自分の不明を恥じました。数値や治療法にばかり目が向き、患者さんの心の状態や生活の背景を理解しようとしていなかったのです。
信頼関係が治療効果を左右する理由
1. 本音を話してもらえる
信頼関係があると、患者さんは素直に困っていることや悩んでいることを話してくださいます。
「実は、間食をやめられないんです」 「薬を飲み忘れることがあります」 「家族に心配をかけたくなくて、無理をしています」
このような本音を聞かせていただくことで、初めて適切な対策を立てることができます。
2. 治療に対する動機が高まる
「この先生が言うなら、やってみよう」 「先生が心配してくれているから、頑張ろう」
そんな気持ちを持っていただけると、治療に対する取り組み方が大きく変わります。
3. 継続的な治療が可能になる
糖尿病は長期間の治療が必要です。信頼関係があることで、患者さんは安心して通院を続けてくださいます。
私が大切にしている「4つの対話の原則」
原則1:まず、患者さんの話を最後まで聞く
診察室に入られた患者さんには、まず「今日はいかがですか?」とお聞きします。血糖値の数値を見る前に、患者さんがどんな気持ちで今日来られたのかを知りたいのです。
時には、医学的な質問ではなく、お孫さんの話や趣味の話をされることもあります。一見、治療と関係ないように思えるかもしれませんが、これらの話からも患者さんの生活の質や心の状態を知ることができます。
原則2:専門用語を使わず、分かりやすく説明する
「HbA1c」「インスリン抵抗性」「合併症」…医学用語は患者さんには馴染みのない言葉です。
私は、できるだけ身近な例えを使って説明するようにしています。
例えば、血糖値については: 「血液の中の糖分の濃度のことです。コーヒーに砂糖を入れすぎると甘くなりすぎるように、血液の中に糖分が多すぎる状態が続くと、体に負担がかかるんです」
このように説明することで、患者さんにより理解していただけます。
原則3:患者さんのペースに合わせる
治療への取り組み方は、患者さんによって全く違います。
- すぐにでも生活習慣を変えたいと思う方
- 少しずつでないと変化に対応できない方
- 家族のサポートが必要な方
- 仕事の関係で制約の多い方
それぞれの患者さんのペースや事情に合わせて、無理のない治療計画を立てることが大切です。
原則4:小さな変化も見逃さず、しっかりと褒める
「今月は散歩を週3回できましたね」 「血糖値の測定を毎日続けられていて素晴らしいです」 「HbA1cが0.2%改善しています。この調子で続けていきましょう」
どんな小さな変化でも、患者さんの努力を認めて褒めることで、治療に対するモチベーションを維持していただけます。
印象に残る患者さんとのエピソード
エピソード1:「先生、ありがとう」
70代の女性患者さんが、診断から3年後にこんなことを話してくださいました。
「先生、私、糖尿病になって良かったと思っているんです。変ですよね?」
理由を聞くと、 「糖尿病になったおかげで、健康について真剣に考えるようになった。規則正しい生活になって、体調も良くなった。そして何より、先生やスタッフの皆さんと出会えた。毎月の診察が楽しみなんです」
涙が出るほど嬉しい言葉でした。私たちの存在が、患者さんの人生にとってプラスの意味を持てているのだと実感した瞬間でした。
エピソード2:家族みんなで健康に
50代の男性患者さんの治療を通じて、ご家族全員の生活習慣が改善されたケースがあります。
最初は奥様が「主人の食事管理が大変で…」と困っていらっしゃいました。
そこで、奥様も一緒に栄養指導を受けていただき、ご家族全員で健康的な食事に取り組んでいただくことにしました。
結果として、患者さんの血糖値が改善しただけでなく、奥様の血圧も下がり、お子さんも「お父さんと一緒に散歩するのが楽しい」と言うようになったそうです。
「病気をきっかけに、家族の絆が深まりました」と話してくださった時は、本当に嬉しかったです。
私が患者さんから教わったこと
長年の診療経験の中で、実は私の方が患者さんから多くのことを学ばせていただいています。
人生の強さと前向きさ
80代で糖尿病と診断されながらも、「まだまだやりたいことがたくさんある」と前向きに治療に取り組まれる患者さん。
家族への深い愛情
自分のことよりも家族の心配をされ、「家族に負担をかけたくない」と一生懸命に治療に励まれる患者さん。
小さな幸せを大切にする心
「今日は血糖値が安定していて嬉しい」「お孫さんが遊びに来てくれた」など、日常の小さな喜びを大切にされる患者さん。
このような患者さんとの出会いが、私自身の人生も豊かにしてくれています。
信頼関係を築くために私が心がけていること
1. 毎回、しっかりと目を見てお話しする
カルテやパソコンの画面ばかり見ていては、患者さんとの心の距離は縮まりません。診察中は、できるだけ患者さんの目を見てお話しするようにしています。
2. 患者さんの名前を必ず覚える
「田中さん、今日はいかがですか?」と名前をお呼びすることで、患者さんに「自分のことを覚えてくれている」と感じていただけます。
3. 前回の診察内容を覚えている
「前回、お孫さんの運動会があるとおっしゃっていましたが、いかがでしたか?」
このような声かけにより、患者さんは「この先生は私のことを気にかけてくれている」と感じてくださいます。
4. 時には医師として以外の顔も見せる
診察の合間に、趣味の話や地域の話題などもすることがあります。医師と患者という関係を超えて、人と人としてのつながりを感じていただけるよう心がけています。
技術よりも心
最新の医療技術も大切ですが、それ以上に大切なのは「患者さんの心に寄り添う気持ち」だと思います。
治すのではなく、支える
私たち医師の役割は「病気を治すこと」だけではありません。「患者さんが病気と上手に付き合いながら、充実した人生を送れるよう支えること」だと考えています。
患者さんへのメッセージ
最後に、このブログを読んでくださっている患者さん、そしてこれから患者さんになるかもしれない皆さんにお伝えしたいことがあります。
遠慮せずに、何でも話してください
「こんなこと聞いていいのかな?」「先生は忙しそうだから…」と遠慮される必要はありません。どんな小さなことでも、気になることがあれば何でもお話しください。
一緒に治療していきましょう
医師と患者という関係ではありますが、私たちは治療のパートナーです。上下関係ではなく、対等な関係で、一緒に最良の治療法を見つけていきましょう。
あなたは一人ではありません
病気に向き合うのは辛いことも多いと思います。でも、あなたは決して一人ではありません。私たち医療チーム、そしてご家族が、いつもあなたの味方です。
信頼関係が生み出す奇跡
25年間の医師生活の中で、私は「信頼関係の力」を何度も目の当たりにしてきました。
医学的には困難とされた状況でも、患者さんとの強い信頼関係があることで、予想を超える改善を示されるケースを数多く経験しています。
それは決して医学的な奇跡ではありません。信頼関係に基づく治療が、患者さんの心身の力を最大限に引き出した結果なのです。
これからも、患者さんと共に歩んでいきます
糖尿病は長期間の治療が必要な疾患です。その長い道のりを、患者さんと一緒に歩んでいくことが、私たちの使命だと考えています。
時には厳しいことをお伝えしなければならないこともあります。でも、それもすべて患者さんの健康と幸せを願ってのことです。
私は、これからも一人ひとりの患者さんとの信頼関係を大切にし、最善の医療を提供していきます。
どんなことでも、遠慮なくご相談ください。あなたのお話を聞かせていただくことが、私にとっても大きな喜びなのです。
まずはお気軽にご相談ください。
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