②睡眠と生活習慣病の関係性
睡眠不足が血圧・血糖に与える深刻な影響
まず押さえておきたいのは、慢性的な睡眠不足が高血圧や糖尿病のリスクを確実に引き上
げるという事実です。
日本睡眠学会や多くの国際的な研究によれば、「1日6時間未満の睡眠が続くと、高血圧 や糖尿病の発症リスクが有意に上昇する」という報告が繰り返し示されています。
その大きな原因の一つが、交感神経の過活動です。
本来、睡眠中は副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が自然と落ち着くのが正常な流れ
。しかし睡眠不足が続くと、この自律神経のスイッチがうまく切り替わらなくなり、交感
神経がアクセルを踏みっぱなしの状態に。
その結果、血圧が下がらず、血管が緊張し続けるという、体にとって非常にストレスフル
な状況に陥ってしまうのです。
さらに、睡眠不足は血糖値のコントロールにも悪影響を及ぼします。
夜間に十分な休息がとれないと、血糖を下げる役割を持つインスリンの働きが低下し、イ
ンスリン抵抗性が高まります。これは糖尿病の前段階とも言える状態であり、改善しない
まま放置すれば、病気が本格的に進行するリスクが高まります。
加えて、睡眠不足は「コルチゾール」と呼ばれるストレスホルモンの分泌を増加させます
。このホルモンは肝臓からの糖放出を促す作用があり、結果的に空腹時血糖の上昇という
形で現れます。
このように、睡眠不足は単なる「疲れの原因」ではなく、体全体の代謝バランスを崩す深
刻なリスク要因なのです。
成長ホルモンがもたらす血管・血糖の修復パワー
では、なぜ質の高い睡眠がここまで重要なのか――。
そのカギを握るのが、「成長ホルモン」の存在です。
「成長ホルモン」と聞くと、子ども時代の身長の伸びや発育を連想しがちですが、大人に
とっては“体の修復係”とも言える非常に重要なホルモンです。
このホルモンには、
血管内皮のダメージ修復
脂質代謝の正常化
筋肉の合成促進
血糖の安定化
といった、生活習慣病の予防・改善に直結する機能が多数備わっています。
しかも、成長ホルモンの分泌が最も盛んになるのは、入眠直後の「ノンレム睡眠」と呼ば
れる深い眠りの時間帯。このタイミングで質の高い睡眠が確保されることで、体内の修復
プログラムが正常に作動するのです。
逆にこの分泌のタイミングを逃してしまえば、いくら長時間眠ったとしても疲れが取れず
、体のメンテナンスが後回しにされてしまうことに。
つまり、睡眠において重要なのは「量」よりも「質」なのです。
さらに注目すべきは、成長ホルモンには脂肪を分解し、内臓脂肪の蓄積を抑える作用もあ
るという点。これはメタボリックシンドローム対策としても非常に有効であり、単なる疲
労回復にとどまらず、“セルフメディケーション”としての睡眠という視点を持つことが大
切です。