そのいびき、放っておいて大丈夫?〜睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基礎知識〜

はじめに:そのいびき、ご家族に心配されていませんか?

「いびきがうるさい」「寝ている途中で息が止まっていて怖かった」——ご家族からこう言われて、ドキッとした経験はありませんか。
あるいは、しっかり寝たはずなのに昼間どうしようもなく眠くなる。会議中や運転中に、まぶたが落ちそうになる。そんな毎日に、心当たりはないでしょうか。

こんにちは。尼崎・塚口で内科の診療を続けております、森川内科クリニック理事長の森川髙司です。
私は子どもの頃から体が弱く、家まで診に来てくれる「往診のお医者さん」に救われた経験から、この道を志しました。
だからこそ、「ちょっと気になるけれど、病院に行くほどでは…」とためらってしまう気持ちを、いつも大切にしたいと思っています。
今日からお届けするこのシリーズ(全5回)は、その「いびき」や「眠気」の正体かもしれない、睡眠時無呼吸症候群(SAS:サス)について、できるだけやさしくお話しするものです。
第1回は、まず「SASってそもそも何?」という基礎からご一緒に見ていきましょう。

結論:いびきと昼間の眠気は、「治せる病気」のサインかもしれません

先に結論からお伝えします。大きないびきと日中の強い眠気は、睡眠時無呼吸症候群という「きちんと治療できる病気」のサインであることが少なくありません。
「年のせい」「疲れているだけ」と放っておくと、知らないうちに体に負担が積み重なっていきます。
けれども裏を返せば、早く気づいて治療を始めれば、ぐっすり眠れる夜と、すっきり目覚める朝を取り戻せる病気でもあるのです。

そもそも睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群とは、その名のとおり「眠っている間に、何度も呼吸が止まったり浅くなったりする」病気です。

医学的には、10秒以上呼吸が止まる状態を「無呼吸」と呼びます。
これが一晩のうちに何度も、人によっては何百回も繰り返されているのに、ご本人はぐっすり寝ているつもりで、まったく気づいていない——これがSASの怖いところです。

呼吸が止まるたびに、体は「苦しい」と感じて一瞬目を覚まし、また眠ります。
これを夜通し繰り返すため、睡眠時間は足りているはずなのに、脳と体はちっとも休めていません。その結果が、あの「日中のどうしようもない眠気」なのです。

なぜ寝ている間に呼吸が止まるの?(仕組みを図解イメージで)

理由は、空気の通り道(上気道:のどの奥)が、眠っている間にふさがってしまうからです。少しイメージしてみてください。
起きているときは、のどの周りの筋肉がしっかり働いて、空気の通り道を支えています。ところが眠ると、全身の力が抜けるのと同じように、のどの筋肉もゆるみます。

このとき、もともと通り道が狭い方では、ゆるんだ舌の付け根やのどの組織が落ち込み、ストローがつぶれるように空気の道がふさがります。
すると——空気が通れず、いびきをかき、ついには呼吸そのものが止まる。これが、最も多いタイプである「閉塞性」の睡眠時無呼吸の正体です。
いびきは、この「狭くなった通り道を、空気が無理に通るときの音」だと考えると分かりやすいでしょう。

では、どんな方の通り道が狭くなりやすいのでしょうか。代表的な要因は次のとおりです。

  • 肥満:首やのどの周りに脂肪がつくと、通り道が狭くなります。
  • 骨格:あごが小さい・後ろに引っ込んでいると、もともと通り道が狭い傾向があります。日本人はやせていても骨格の影響でなりやすい方がいます。
  • 扁桃が大きい・鼻づまりがある:物理的に空気の道が狭くなります。
  • 加齢・飲酒:筋肉がゆるみやすくなり、寝る前のお酒はいびき・無呼吸を悪化させます。

「ただのいびき」と「危険ないびき」は、どう違うの?

結論は、「呼吸が止まっているかどうか」が分かれ目です。疲れたときに軽くかく程度のいびきと、SASのいびきは性質が異なります。次のようないびきには、特に注意が必要です。

  • 毎晩のように大きないびきをかく。
  • いびきが「ピタッ」と止まり、しばらくして「ガッ」と大きな音とともに再開する(この“止まっている時間”が無呼吸です)。
  • ご家族から「寝ているとき息が止まっていた」と言われたことがある。

ご自身では眠っている間のことは分かりません。だからこそ、ご家族の「気づき」がとても大切な手がかりになります。
もしこの記事を、ご本人ではなくご家族の方が読んでくださっているなら、その違和感は決して見過ごさないであげてください。

こんなサインはありませんか?

SASは夜だけの問題ではなく、昼間の体調にもはっきり表れます。次のようなサインに、思い当たるものはないでしょうか。

  • 朝起きたときに、頭が重い・痛い、口がカラカラに乾いている。
  • ぐっすり寝たはずなのに、日中に強い眠気がある。
  • 夜中に何度もトイレで目が覚める。
  • 集中力が続かない、気分が晴れない、疲れが取れない。

これらは「気合いが足りない」のでも「年のせい」でもなく、夜の呼吸が乱れているサインかもしれません。
当てはまる項目が多いほど、一度きちんと調べてみる価値があります(くわしいセルフチェックは第3回でご用意します)。

なぜ、早めの相談が大切なのでしょうか?

ここが最もお伝えしたいところです。SASは、放っておくと睡眠不足の問題にとどまらず、高血圧や心臓・血管の病気など、全身の健康に影響していくことが分かっています。
さらに、日中の強い眠気は、居眠り運転など事故のリスクにも直結します。ご自身だけでなく、周りの方を守るためにも見過ごせない病気なのです(このリスクについては第2回でくわしくお話しします)。

一方で、SASは「気づけば対処できる」病気です。検査で状態がはっきり分かり、その方に合った治療があります。
約30年、地域の皆さんの内科を診てきて、治療によって「朝の目覚めが変わった」「日中の眠気が消えて仕事がはかどるようになった」と笑顔で話してくださる方を、私は何人も見てきました。
怖いのは病気そのものより、「気づかないまま放っておくこと」なのです。

今日からできること

  1. 今夜、寝る前のお酒を一杯減らしてみる(飲酒はいびき・無呼吸を悪化させます)。
  2. 横向きで寝てみる(あお向けは舌が落ち込み、通り道がふさがりやすくなります)。
  3. ご家族に「私、寝ているとき息が止まってない?」と一度たずねてみる。
  4. 当てはまるサインが多いと感じたら、「いびき・眠気は内科で相談できる」と覚えておく。

これらはあくまで“気づきの第一歩”です。生活の工夫で軽くなることはありますが、本当に無呼吸があるかどうかは、検査をしてみないと分かりません。気になる方は、自己判断で済ませず一度ご相談ください。

まとめと、次回の予告

今回お伝えしたかったのは、「大きないびきと昼間の眠気は、治せる病気のサインかもしれない」ということです。
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に空気の通り道がふさがり、呼吸が何度も止まる病気。やせていてもなる方がいて、夜だけでなく昼の体調にも表れます。
そして何より、早く気づけば対処できる病気です。

次回の第2回では、「日中の強い眠気は『気のせい』ではない?」と題して、SASを放っておくと体にどんなリスクがあるのか
——高血圧や心臓の病気、居眠り運転との関係を、もう一歩くわしくお話しします。

いびき・眠気が気になったら、お気軽にご相談ください

「病院に行くほどかな…」と迷う、その段階でのご相談を、私たちはいちばん大切にしています。SASは特別な人の病気ではなく、ごく身近な、そして相談しやすい病気です。
当院では問診から検査、CPAPなどの治療・その後の管理まで、地域のかかりつけ内科として一貫してサポートします。

執筆者プロフィール
森川 髙司
医療法人煌仁会 森川内科クリニック 理事長
専門:内科・消化器内科・呼吸器内科
地域の皆様の健康寿命延伸のため、生活習慣病の予防・改善指導に力を入れています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です