日中の強い眠気は「気のせい」ではない?〜SASが体に与える本当のリスク〜
はじめに:その眠気、「寝不足のせい」で片づけていませんか?
会議中、運転中、昼食のあと——どうしようもなく眠くなる。前回お話しした睡眠時無呼吸症候群(SAS:サス)では、眠っている間に呼吸が何度も止まり、脳と体がしっかり休めていないため、日中に強い眠気が出るのでしたね。
こんにちは。森川内科クリニック理事長の森川髙司です。第1回では「SASとは何か」という基礎をお話ししました。
第2回の今回は、もう一歩踏み込んで、「SASを放っておくと、体にどんなリスクがあるのか」をお伝えします。少し怖い話も含みますが、最後には希望もきちんとお届けしますので、どうぞ最後までお付き合いください。
結論:日中の眠気は、体からの「危険信号」かもしれません
先に結論をお伝えします。SASによる日中の強い眠気は、単に「つらい」だけの症状ではありません。
ひとつは、居眠りによる事故という、すぐ目の前にあるリスク。もうひとつは、高血圧や心臓・血管の病気といった、時間をかけて全身にしのび寄るリスクです。
SASを放っておくと、夜ごとの呼吸の乱れが、知らないうちに体へ負担を積み重ねていきます。
ただし——これは裏返せば「気づいて治療すれば、その負担を減らしていける」ということでもあります。まずはリスクを正しく知ることから始めましょう。
なぜ「ただの眠気」が、こんなに危険なのですか?
最も分かりやすく、そして見過ごせないのが「居眠り」のリスクです。SASの方は、自分では気づかないうちに、日中に突然強い眠気に襲われることがあります。
問題は、それが運転中や仕事中にも起こりうることです。
日中の強い眠気による居眠り運転が、重大な交通事故につながった例は、国内外で数多く報告されています。ご本人にその自覚がないまま起こることが多いため、いっそう危険です。
これは、ご自身の安全だけでなく、ご家族や周りの方の安全にも関わる問題です。「眠気くらい」と思わず、しっかり向き合っていただきたい理由が、ここにあります。
寝ている間、体の中では何が起きているのですか?
結論から言うと、SASの夜の体は「休んでいるどころか、何度も非常事態に対応している」状態です。少しイメージしてみましょう。
呼吸が止まると、体に取り込まれる酸素が減ります。すると体は「酸素が足りない、起きろ!」と危険を察知し、一瞬目を覚まして呼吸を再開させます。
このとき、心臓に「もっと働け」と指令を出す自律神経(交感神経)が、ぐっと活発になります。脈が速くなり、血圧が上がります。
つまり、本人はぐっすり寝ているつもりでも、体の中では一晩に何度も「酸素不足→緊急で目覚める→血圧・脈が上がる」というサイクルが繰り返されているのです。
夜通し、短いダッシュを何百回も繰り返しているようなもの。これでは、心臓も血管も休まりません。この「夜間の負担の積み重ね」が、次にお話しするさまざまな病気の土台になります。
SASと高血圧には、どんな関係があるのですか?
SASは、高血圧と深く関わっていることが分かっています。先ほどの仕組みのとおり、夜のあいだ血圧が繰り返し上がるため、本来は血圧が下がって休むはずの夜間や早朝に、血圧が高いままになりやすいのです。
特に、お薬をきちんと飲んでいるのに血圧がなかなか下がらない——という場合、その背景にSASが隠れていることがあります。
高血圧の治療がうまくいかないとき、「実はSASが原因のひとつだった」と分かり、そちらを治療することで血圧の管理が良くなる、というケースは少なくありません。
心臓や血管の病気とも、つながっているのですか?
はい。SASを放置すると、心臓や血管に負担がかかり続けるため、不整脈(脈の乱れ)、心臓の病気、脳卒中などのリスクが高まることが知られています。
夜ごとに酸素が不足し、血圧と脈が乱高下する状態が長く続けば、心臓と血管がそのダメージを受け止め続けることになるからです。
こうした病気は、ある日突然あらわれるように見えて、実は長い時間をかけて準備されていることが多いものです。
SASは、その「準備」を静かに進めてしまう要因のひとつ。だからこそ、症状が軽いうちに気づくことに、大きな意味があります。
血糖や生活習慣病にも影響しますか?
関係があると考えられています。睡眠が細切れになり、体が十分に休めない状態が続くと、血糖のコントロールにも影響しやすく、糖尿病をはじめとする生活習慣病と関わることが分かってきました。
高血圧、糖尿病、心臓・血管の病気——これらはいずれも、私たち内科が日々向き合っている生活習慣病です。
SASは、その複数に同時に影を落としうる、いわば「見えにくい共通の根っこ」になっていることがあります。
生活習慣病の治療がなかなか思うように進まないとき、睡眠を見直すことが突破口になる場合があるのです。
放置するとどうなる?——でも、希望もあります
ここまで、少し怖い話が続きました。けれど、最もお伝えしたいのはこの先です。SASは、気づいて治療を始めれば、これらのリスクと向き合っていける病気だということ。
これが今回いちばんの希望です。
治療によって夜の呼吸が安定すると、体は本来の「休む夜」を取り戻します。
私自身、約30年の診療のなかで、治療を始めた方から「朝の頭の重さが取れた」「日中の眠気が消えて、運転がこわくなくなった」「血圧が落ち着いてきた」といった声を、何度も聞いてきました。
怖いのは病気そのものよりも、「気づかないまま、負担を積み重ね続けてしまうこと」なのです。
今日からできること
- 最近の健康診断で「血圧が高め」と言われていないか、思い出してみる。
- 運転中や会議中に強い眠気を感じたことがないか、振り返ってみる(危険を感じたら、その時点で要注意です)。
- 高血圧や糖尿病で治療中の方は、「睡眠中の無呼吸が関係していないか」を、次の受診時にかかりつけ医へ相談してみる。
- ご家族の「いびき・無呼吸」が気になる方は、本人と一度、落ち着いて話してみる。
ここで挙げたリスクは「必ずそうなる」というものではなく、「放置すると高まりうるもの」です。過度に不安になる必要はありません。
大切なのは、心当たりがあれば一度きちんと調べてみること。それが、いちばんの安心につながります。
まとめと、次回の予告
今回お伝えしたかったのは、「日中の強い眠気は気のせいではなく、体からの危険信号かもしれない」ということです。
SASを放置すると、居眠り事故という目の前のリスクに加え、高血圧・心臓や血管の病気・糖尿病といった生活習慣病とも関わってきます。
けれど、早く気づいて治療すれば、その負担と向き合っていける病気でもあります。
次回の第3回は、「自分は大丈夫?〜おうちでできるSASセルフチェックと受診の目安〜」。
ご自宅で確認できるサインをチェックリストにまとめ、「これは受診したほうがいいかな」と迷ったときの目安を、具体的にお伝えします。
気になる症状があれば、お早めにご相談ください
「眠気くらいで受診していいのかな」とためらう、その段階でのご相談こそ、私たちが大切にしているものです。
特に、高血圧や糖尿病で治療中の方、お薬を飲んでも血圧が下がりにくい方は、一度SASの可能性をご相談いただく価値があります。
当院では問診・検査からCPAPなどの治療・その後の管理まで、地域のかかりつけ内科として一貫してサポートします。
あなたとご家族の、ぐっすり眠れる夜とすこやかな毎日のために。次回もどうぞお付き合いください。
執筆者プロフィール
森川 髙司
医療法人煌仁会 森川内科クリニック 理事長
専門:内科・消化器内科・呼吸器内科
地域の皆様の健康寿命延伸のため、生活習慣病の予防・改善指導に力を入れています

